結成52年、名門少年野球チーム「おばちゃんコーチ」の生きる力の育て方

〝自分で考えて、行動するチカラを持つこと〟が本来の子育ての目的なのですが、親はつい先回りして、手伝ってしまいます。「ここに入ると子どもが自立する!」と噂の少年野球チームを取材。名物〝おばちゃん〟コーチの子育て哲学とは?

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おばちゃんコーチ・棚原安子さん

わが子であろうと、他人の子であろうと関係あらへん。先に生きてるもんが 次の世代をきっちり育て上げな、あかん

○ 低学年チームのコーチ 棚原安子さん(83歳)
1940年大阪府生まれ。ソフトボール選手として実業団で活躍。4男1女の母。母親たちへの料理教室も開催。独自の指導哲学とお金をかけない運営が評判で、注目されている。

○ 少年野球チーム 「山田西リトルウルフ」
棚原安子さんが大阪府吹田市で夫の長一さんと立ち上げ、結成52年目を迎える。現在、年長~小6までおよそ120人。2016年には全国大会出場も果たし、数々の優勝経験を持つ。

私は昔から「監督」ではなく、「おばちゃん」で居続けている。〝近所のおばちゃん〟という感覚のコーチや。

というのも、私は「先に生きているもんが、見本を示して次の世代をきっちり育て上げなあかん」という使命で子どもたちを育てている。他人の子であろうとわが子であろうと関係あらへん。でも、最近の大人は子どもたちに「やめろ!」と怒るだけや。「なぜいけないのか」の説明が欠けとる。ただ排除するのでなく、その子たちを伸ばしてやらなあかん。

私が経験したことを伝えられるまでは、辞められへん。まず私は〈子どもたち自身が将来、社会に出ても困らないで生きていける力をつけられるようになるまで〉根気よく、100万遍でも言い続けるで。それだけ話さないと子どもに伝わらないこともある。子育てはホンマに大変や。エネルギーがいる。そして「葉っぱ一枚の努力が積み重なってこそ、山になるんやで」と教える。小さな積み重ねが実を結ぶんや。

ボールを打てない子に、スウィング動画を見せて「バットの先が下がってるやろ」と教える。すると休憩時間に一生懸命練習し、再開したら打てるようになる。「ええバッティングやったで!」と褒めたら、子どもはニタ~ッと笑顔で応えてくれる。これが私の原動力、教えててよかった~と思う瞬間。そして良くも悪くも、勝ち負けがあるのが野球。エラーをした子には、「失敗こそがチャンスやで」と教える。失敗は次をどうするか、どう復活するかを考えるためのいい機会。そこで子どもは立ち直り方を学ぶ。これこそスポーツの醍醐味や。エラーは絶対に怒らへん。「エラーはおばちゃんのノック不足。おばちゃんのせいや」。

最近の親は何でも面倒を見てしまう。さらには「うちの子が試合に出られないから辞めます」と言われる。それは絶対にあかん! そうやって子どもをペットのように育てると自立できないまま育つ。試合に出られない子がベンチで学ぶことがどれだけ大事なことか! ベンチでも自分がバッターなら、次どうする? 打つ? 見送る? 自ら学び取り、考えることが大事なんや。

私は自分でやるべきことを低学年のうちから教えます。「ユニフォームは自分で洗濯する」「自分で水筒を用意する」「家の手伝いをせえへん子はメシ食うな」と伝えます。そうすると先輩のお兄ちゃんたちからも学び、いつの間にか当たり前にできるようになります。思春期の子どもがいる親たちにはぜひ「親」という漢字の意味を思い出してほしい。〝木の上に立って見る〟。じっと見守ってや。

私には「しんどい」という言葉はありません。おばちゃんに気を遣わんと、ナンボでも「ノックして」と言いや。動ける肉体を使い果たすで!

チームが大切にしていること

「目標と目的を間違えんな」ということを母の指導から受け継いでいます

○ チームの総合監督
棚原 徹さん(54歳) 安子さんの三男

僕も息子も卒団生です。現在はチームの総監督をしています。両親がチームを結成した時代からの指導方針が「目標と目的を間違えんな」ということ。チームの目標は〝試合での勝利〟ですが、大きな目的は〝人間として自立する〟ことです。僕は小・中時代は万年補欠でした(笑)。ベンチで監督と「ここはスクイズですかね?」などと話し、予測観察の大事さを体感してきました。今も目先の勝利より、子どもたちのこれからが一番大事です。

7つの名言

  • わかるまで根気よう100万遍でも言い続けること
  • 葉っぱ一枚の努力が積み重なって山になる
  • 「失敗」こそが「チャンス」やで
  • 家の手伝いもせえへん子はメシ食うな
  • ベンチで学ぶことこそ大事なことや
  • 「親」という漢字はようできとる。〝木の上に立って見る〟こと。
  • 私に〝しんどい〟という言葉はない
グラウンドは子どもたち自身で整備する。ただし低学年は、大人が手伝い、まず見本を見せる。
ユニフォームは貸与、代々引き継ぐ。費用も抑えられ、子どもたちも大事に扱うようになる。
低学年から、練習前にはバットなどをキレイに並べる。並んでいないと、かなり怒られるとか。
練習終了後、一同整列し〝おばちゃん〟の話をじっくり聞く。技術面より社会対応の話が多い。
ウルフの信念を引き継いだ父親やOBたち34人がボランティア指導。一致団結した組織力。
チームの月謝は低学年¥500~高学年¥2,000。足りない分の費用は新聞回収活動などで賄う。

撮影/久保嘉範 取材/東 理恵 ※情報は2023年8月号掲載時のものです。

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