17人を養育してきた「里親」が語る”ほんとうにかぞく”となるために必要なこと
「ママ似? パパ似?」…日本では血縁を重んじる文化があり、親子の血縁関係があることを前提とした会話がなされることも多くあります。しかし、血縁があっても関係が良好でない場合もあり、逆に血の繫がりがなくても深い信頼関係を築く親子もいます。
幸せな親子とは何でしょう? さまざまなカタチの親子関係は、悩みや葛藤を抱えるSTORY世代にとって、道しるべになるかもしれません。
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3歳から養子に。川嶋あいさん「血のつながりより、過ごした時と愛情が大切」
野口婦美子さん 59歳・神戸市在住
NPO法人「Giving Tree」事務局長
ちょっとずつお互い意識することで
〝ほんとうにかぞく〟になっていく
〝ほんとうにかぞく〟になっていく
野口婦美子さんは長く児童養護施設で勤め、退職後夫婦で野口ホームの運営を行っています。現在3人の子どもと暮らしていますが、これまで17人を養育してきました。幼児教育を学べる短大へ進学後、児童福祉に興味関心があり、児童養護施設に就職。その後、同じ職場の啓示さんと結婚し、同施設を退職しました。
「結婚後、夫婦で産婦人科に行って、自分たちは子どもができにくいということが分かりましたので、不妊治療を始めました。しかし、当時施設の敷地内にある社宅に住んでいたので、目の前には常に家庭を求める子どもたちがいて…。私たち夫婦は自分たちの子どもを求める治療をしていることに不自然さを感じ、『不妊治療はやめて自然に任せよう。まずは、家庭を求めている目の前の子どもたちに寄り添いたい』と、1年半ほどで不妊治療はやめました」。
たった一人の子どもでもいいからその子の人生への良い影響となるような、そんな児童養護がしたいと、ご夫婦で野口ホームを作ることを決意したそうです。
「児童養護施設に再就職し、その分園として、夫婦で野口ホームを始めました。その後、施設を退職すると同時に里親登録をし、野口ホームは『ファミリーホーム』に移行しました。野口ホームのときは、子どもたちから『おねえさん』と呼ばれていました。でも登録をして里親となってから、初めて来た子どもに『おかあさん』と呼ばれたときは嬉しかったです」。
ホームから自立した後の子どもたちのことも気にかけているといいます。「乳児院から関わっていた子どものことです。高校を卒業して就職し、ホームを出て一人暮らしを始めました。しかし半年ぐらい経った頃、職場から連絡が入り、その子の部屋を訪ねると、真っ暗な部屋の中に、一人でいました。いままで私を頼りにしていたのに、何も言えず一人きりで部屋にこもっていたかと思うと、胸が張り裂けそうでした」。
それからは、小さい頃からその子の髪を切っていたので、毎月家に帰ってくる理由になればと思い、定期的に野口さんがヘアカットをしているそうです。そんな経験もあり、’16年に里親の相談や、里親家庭や児童養護施設から自立した子どものサポート、地域の子育て支援のためのNPO法人「Giving Tree」を設立。
「里親を必要としている子どもがいること、自立後にサポートが必要なこと、またこのような里親制度があることを知っていただきたいです。もし興味関心がありましたら、ご自身のライフスタイルに合った子どもたちへの応援をしていただければと思います。地域で困っている子どもや家庭があれば、優しい目で理解し、手を差し伸べてもらえたら嬉しいですね」。
「血が繋がっていないからこそ、お祝い事は意識してみんなで過ごしています」。野口さん著『ほんとうにかぞく』(明石書店)は、野口ホームを運営する指針となりました。
2~3カ月に一度、自立した子どもたちにふるさとギフトとして仕送りをしています。送り先によって、中身を少し変えています。「いろいろですが、日持ちする食品が喜ばれます(笑)」。
<編集後記> 意識することで本当の家族に。その思いに目から鱗
血が繋がっていないからこそ、家族のお祝い事などをするときはみんな一緒ということを意識している野口さん。たくさんの思い出の品が家の中にあり、家族の絆を感じました。野口さんの家族をみてから「最近家族の思い出が少なくなっているな」と気づいたので、これからは意識して家族の思い出を増やしていきたいと思いました。(ライター 加藤景子)
撮影/BOCO 取材/加藤景子 ※情報は2024年6月号掲載時のものです。
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