柔道家・阿部 詩選手が語る、進み続ける原動力「母は『何もしていない』と言いつつ尽くしてくれました」

畳の上での力強い姿からは想像できないほど、周りをパッと明るくする朗らかな笑顔が印象的な、柔道家・阿部詩選手。多感な思春期を過ごす子どもを持つ親として、彼女を包んできたご家庭のストーリーからは、きっと子育ての優しいヒントがもらえるはずです。これまでの道のりで彼女が宝物にしてきた経験や、いま子どもたちに伝えたい温かい想いを伺いました。

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一緒に泣いて笑って…一度も「勝て」と言われたことはなかった

柔道を始めたきっかけは、5歳くらいの時に、兄ふたりの稽古を見て楽しそうだと思ったこと。ここまで長く柔道を続けられたのは両親のサポートがあったおかげなので、本当に感謝しています。私の試合を観た方はご存知だと思うのですが、父がいつもすごく大きな声で応援してくれるんです。試合中も、父の声を聞いたら安心できるくらい! たくさん応援してくれるけれど、今まで両親からのプレッシャーを感じたことは一度もありません。一緒になって戦ってくれていたので、負けたときは一緒に落ち込み、勝ったときは一緒に喜んでくれて…。「絶対に勝てよ!」とか、「この試合で勝たないと次はないぞ」とか、「絶対優勝しないと」とか、そういう言葉は昔からかけられた記憶がないですね。声がけと言ったら柔道の細かな部分のアドバイスくらい。本当に父がポジティブなので、マイナスな面は一切出さず、トレーニングに付き合ってくれたり、練習は必ず見にきてくれたり、いつも私が前向きな気持ちになれるように寄り添ってくれていたように思います。

 

母は「何もしていない」と言いつつ尽くしてくれました

私自身、思春期というものがあまりなかったかもしれません。中学生の時は朝5時半に起きて、電車で1時間弱かけて通学し、練習をして帰宅するのは夜の10時くらい。そんな環境だったので、そもそも父や母に反抗する状況が生まれませんでした。でも、「今日どうだった?楽しかった?」とか根掘り葉掘り聞かれるのは嫌で、そういうシチュエーションになると(なんか面倒くさいな)という気持ちが芽生えることも。それを察してくれていたのか、私から話したいタイミングで話を聞いてくれるくらいで、あまり両親に干渉されることはなかったです。母はいつも「私は何もしていない」と言っているんですけれど、毎朝、車で駅まで送ってくれて、放課後の練習のためのお弁当も学校まで届けてくれて……。1日3往復するのも厭わずに、私のために尽くしてくれました。そういう姿を間近で見ていたからこそ、反抗心なんて本当になかったですし、感謝の気持ちしかありません。父はすごく愛に溢れていて、人との繋がりを何より大事にする人。愛があるからこそ、人は深く繋がり合えるんだということを、父と母は毎日の暮らしの中で、身をもって教えてくれた気がします。

“負け”を経験して気付けたこともあります

今までで一番印象に残っている“負け”は、やはりパリオリンピックでの負けです。でも、そこから学んだことも大きかったんですよね。それまで私自身が勝つことや優勝するという目標にこだわってきていて、負けたら全てが終わってしまうんじゃないか…そんな思いも抱えていました。でも実際はそうではなく、たくさんの方が応援してくれて、多くの方に支えてもらえていることを改めて感じたので、そういう部分では、得難い経験だったとは思います。でもそれがよかったとまでは、まだ言えないですね。今の目標は、ロサンゼルスオリンピックで優勝すること。その原動力は、やっぱりパリでの負けにあるんです。ロスで優勝して初めて、「あのパリの負けがあったからこそ、今がある」って胸を張って言えると思うので。だから今は、あの悔しさをバネにして、前だけを向いて進んでいます。

一緒に戦ってくれた両親が私の「好き」を守ってくれました

パリで負けた後、東京・パリと2連覇を遂げた兄からは、「ロスでふたりで取り返そう」とその当日にメッセージが送られてきました。両親は、何か言うでもなく、寄り添ってくれました。かける言葉が見つからなかったのかもしれませんし、そっとしておいてほしい私の心境を推し量ってくれたのかもしれません。日本に帰国してからもずっと一緒にいてくれて、両親は人生を一緒に戦ってくれているんだと感じました。一緒に目標に向かう仲間や、応援してくれている人、前向きにさせてくれる人が身近にいるということが、きっと、自分の好きを守れる環境なのだろうと思います。少しでも否定したり、頭ごなしに叱ったりすることは、子どもの好きを阻むことに繫がるかもしれません。私だったら反発する気持ちが生まれてしまうかも…。ただ、全てを肯定してもらえる環境が良いとも限らなくて。やっぱり、自分の「好き」という気持ちを信じて、一緒に戦ってくれる人を見つけること。その中で揉まれながら進んでいくことが、自分を一番成長させてくれる気がします。私にとって一番身近な味方は、いつも家族だったんです。

STORY 公式YouTubeで思春期キッズと共演!

柔道をしている思春期キッズたちと、試合時のメンタルのことや技のかけ方から、ファッションの話まで、機知に富んだ会話が繰り広げられました。貴重な阿部詩選手直々の柔道指導も!STORY YouTubeは必見です!

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阿部 詩選手 プロフィール

2000年7月14日生まれ。兵庫県出身。パーク24株式会社所属。

5歳で柔道を始め、’17年IJFワールド柔道ツアー52kg級(以下同)で、史上最年少優勝。その後、世界選手権は’18年、’19年、’22年、’23年、’25年と5度制覇。’21年東京五輪では金メダルを獲得。’24年パリ五輪では混合団体で銀メダル獲得。’25年グランドスラム・バクー、全日本選抜柔道体重別選手権大会で優勝。

撮影/中田 陽子 取材/竹永久美子

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