加藤夏希さん、育児による強制的なオンオフの切り替えにありがたみ「帰宅した瞬間、仕事を考える隙が消えて…」
新劇場「東京建物 ぴあ シアター」にて10月23日(金)〜11月7日(土)で上演される舞台『春よ来い、マジで来い』。原作はNHK連続テレビ小説『ブギウギ』の作者・足立紳さんの実話を交えた青春小説で、脚本家志望の主人公タカシと、個性豊かなキャラクターたちとの掛け合いが、舞台ならではの表現で魅力的に描かれます。主人公の元カノ・ユキを演じる加藤夏希さんは「最初ユキに全く共感できなかった」のだそう。どのように役作りをされたのか、舞台の見どころなどお話しいただきました。(第1回/全2回)
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主人公タカシが「ダメな男」じゃなくて「可愛い」と温かく見守って貰えるように演じたいです
STORY編集部(以下同)ーー舞台の見どころを教えてください
誰もが通ったであろう「これって恋愛に発展するのかな?」「なんか好きかも」という淡い恋心や、「自分にもこういう経験あったな」と思い起こすような場面がたくさん出てくるので、共感しやすい作品だと思います。主人公はうだつの上がらない脚本家志望のタカシなんですが、男性から見たタカシと女性から見たタカシは、見え方が180度違うんじゃないかと思って。男性からすると「全部うまくいかなかったな、なんでだろう」って、上手くいかなかった原因すら分からないかもしれないんですけど、女性からすると「そりゃそうだよ!あんなに恋愛の雰囲気があったのに、なんで白黒はっきりしないの?」ってお尻を叩きたくなる感じなんですよ。そういう男女での見え方の違いも面白い作品だと思います。
ーー今回加藤さんが演じられるのは元カノ「ユキ」。役作りはどの様にされましたか
台本を初めて読んだ時は、ユキに全く共感できなくて。距離をおいている恋人から、新しく好きになりそうな女の子のことを「どう思う?」って聞かれたら、普通は「まだ別れてないのに私に聞くの!?」って怒ると思うんですけど何も気にしていなかったり。でも、読み込んでいくうちに「そうか!これはリアルなユキじゃなくて、タカシが都合よくユキのいいところだけを寄せ集めて美化したユキなんだ」と気がついて。自分の言って欲しいことを言ってくれて寄り添ってくれる理想のユキなんて「まるでチャッピーじゃん!」って(笑)。
今回ユキを演じるにあたって、いろんな方にどんな恋愛をしてきたのか聞いてみたんですけど、男性は別れた人を美化というか「最終的には上手くいかなくて別れちゃったけど、付き合っていた頃はすごい優しかった」「可愛かった」とか結構褒めるんですよ。女性に同じことを聞くと「別れて正解だった」みたいな話が多くて。もちろん全員がそうだというわけではないけれど、過去の恋愛体験を説明するだけでも、こんなにも男女の違いがあるんだと思うと面白いですよね。そういう男性目線が現れた存在がユキなのかなと。
作中でタカシが出会う女の子たちは女子大生なので、社会人ってだけでかっこよく見えたり、タカシみたいに言葉をあまり発しない何考えているか分からない感じが魅力的に見えるのかも。実際は、ただ言いたいことが言えないだけなんですけどね(笑)。でもそんなタカシを、観てくださっている方が「ダメな男」とみるんじゃなくて、ユキのタカシへの態度みたいに「しょうがないなぁ、そういうところも可愛いけどね」って母性を持って温かく見守ってもらえるようにユキを演じたいと思っています。
妊娠出産を経て「仕事は仕事、家庭は家庭」と強制的に切り替えざるを得なくなって
ーー4児の母でもある加藤さん。舞台も始まるとお忙しくなるかと思いますが、家庭と仕事の切り替えはどのようにされていますか。
子どもが生まれるまでは、家に帰ってからもセリフを覚えたり役や作品の背景を調べたり、あまりオンオフ切り替えるタイプではなくて。芝居がうまくいかなくて帰宅した日は「今日の芝居こうだったな」「監督が言ってたのはこういうことだったのかな」とか落ち込んだまま延々と振り返りをしたり、役に入り込んだまま家で過ごすことも多かったので、複数の役が重なると頭がパンクしそうになったことも。
子どもが生まれてからは、帰宅した瞬間に子どもたちがあちこちから話しかけて来るので、子どもたちが眠るまでは仕事のことを考える隙が全くなくて。でも、少し時間を空けることでクールダウンできるので、子どもたちが寝た後に「もう一度作品に向き合おう」と上手く切り替えができるようになりました。「仕事は仕事、家庭は家庭」と強制的に切り替えざるを得なくなったことは、役のことを家でも考え過ぎてしまう私にとって良かったのかもしれません。
役作りに関しても、今までは事前にすごく考えて自分の中で完成したものを稽古場に持っていくスタイルだったんです。今回も台本読み合わせの前から、演出のマギーさんに「男性脳が描く理想の女性像が上手く描けなくて」「タカシとの距離感が想像がつかなくて」とご相談をしていたら「そんなに一人で考えこまないでください。やっていくことで形になっていくから現場で話していきましょう」みたいな感じで言っていただいて。その時に「あ、私のこれが悪い癖なのかも」と思ったんです。自分の中でしっかり作り上げていくことがベストだと思っていたけれど、現場で皆さんと創り上げていく過程で変化が生じることもあるし「現場の空気感を感じとる」という意味では、今まではずっと一人芝居をしていたのかもしれないと思って。そこからは、余白を残した状態で現場に行くようになりました。まだ不安もありますが、徐々に現場の空気感や肌で感じ取ったことをその場で活かせるようになってきたかな。感覚でやってみることの大切さが、やっと分かってきた気がします。