東出昌大さん「頭が沸騰して、帰ってすぐには眠れない」。初めて台本づくりから参加する舞台への想い
オールメールキャストの『サド侯爵夫人』でのドレス姿も印象的だった東出昌大さんの待望の次回作、『ハムレット、冬の旅 HAMLET’S WINTER』が11月に上演。演出・振付は東出さんが「公私を共にしている」と語る首藤康之さんが手がけ、栗原英雄さんが『冬の旅』を歌唱するという豪華な布陣も話題を呼んでいます。今作への思い、そして特別な関係だからこそ知っている首藤さんの意外な素顔について、東出さんにお話ししていただきました。
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東出昌大
1988年埼玉県出身。2012年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。ドラマ『あまちゃん』『ごちそうさん』などに出演し、映画・ドラマを中心に幅広く活躍。近年の主な出演作は映画『Winny』『福田村事件』、Netflixシリーズ『イクサガミ』など。舞台にもコンスタントに出演し『豊饒の海』『サド侯爵夫人』など文学性の高い作品にも挑んでいる。初の単独著書『誰が為にか書く~東京から離れた山暮らし日記~』を発表。
仰々しさをなくした、新しい『ハムレット』を目指して
今回の『ハムレット、冬の旅』は、何度もご一緒させていただいているプロデューサーさんからお話を頂戴したので二つ返事でお受けしました。ただシェイクスピアの『ハムレット』とシューベルトの『冬の旅』を融合させた前例がないので、お話を聞いた時点では想像しにくかったです。「かなり高次元のクリエーションが必要とされるんだろうな。お受けするからには覚悟を持ってやります」という感じです。
今は台本作りのためのワークショップを行っています。「台本があって、その台本通りにお芝居する」のではなく、もともとある『ハムレット』の台本を読み込んで、どこを際立たせて『冬の旅』やバレエと融合させていくか、ちょっとずつ味を確かめながらドレッシングを作るような作業をしています。映像作品や舞台の台本が上がってきて、「これどう思う?」「このセリフの足し算引き算どう?」などのご相談を受けることはあっても、台本作りの段階から参加させていただくことは初めてですし珍しいですね。充実した時間で楽しいです。けれども帰ってすぐには寝れないぐらい頭が沸騰するので、寝付きは悪いです(笑)。
『ハムレット』の「生きるべきか、死ぬべきか。それが問題だ」というセリフ。これぞ!という新訳をされた河合祥一郎先生が台本監修として現場に来てくださっているんです。先生のご著書を読み、自分の中で『ハムレット』も読み込んで参加していますが、それでも勉強不足でわからないヴィクトリア時代のイギリスの文化風俗や習慣など、教養の部分を先生が教えてくださるので非常に豊かでラッキーな時間です。
シェイクスピアは実力派の役者さんたちの舞台を度々観に行っていますし、役者を志した時から彩の国さいたま芸術劇場に蜷川幸雄さんのシェイクスピアを何度も観に行っていました。ただ、演出の首藤康之さんは今まで私が観てきたシェイクスピアとは方向性が違うものを目指していらっしゃるので。多分、イギリス人がシェイクスピアをやる時は普通のテンションで喋るんです。ベネディクト・カンバーバッチがハムレットを演じる映像を見たことがあるんですけど、舞台の背骨はありながらも仰々しくない。日本だと伝統芸能色が強くなるというか仰々しくなってしまう瞬間があるのを、今回は全部なくそうという試みです。今までにもそういった作品はありますが、難しいことなんですよね。あまりにも現代風になるとスケールが小さくなっちゃうから、いい塩梅を探していますが、なかなか新しい『ハムレット』になると思います。
「本物」を求める共演・関係者たち。信頼感が挑戦を支える
演出・振付の首藤さんとは何度か共演させていただいています。初めて共演させていただいた時、誰よりも早く劇場入りをして時間をかけてウォーミング・アップや準備をされていて、その姿勢だけでもすごいと思うんです。YouTubeで首藤さんを検索するとモーリス・ベジャール振付の『ボレロ』が出てくると思いますが、狂気的と形容したくなるほどバレエに人生を全ベットする生き方をされてきた方です。ゴッホが耳を切ったような、作家が破滅的な人生を選ぶ情熱を現代で体現していらっしゃるんです。首藤さんのように肉体の限界までやっている方は私の周りにもなかなかいないです。私も甘ちゃんですが「本物ってなんだろう」って探求、希求する心は何がしか持っていますし、あの首藤さんに「東出をキャスティングしてよかった」って思ってもらえるようにやらないと話にならないなと思っています。
首藤さんとは舞台以外の場でも親しくさせていただいています。飲みに行くと本当にくだらないオヤジギャグを言ってくるので(笑)、「しょうもな!」ってつっこんだり。舞台にかける狂気だけだと人間ってダメになっちゃうから、飲みの席で一文の足しにもならないオヤジギャグを言って精神の均衡を図っているんだと思います(笑)。そんな時間も一緒に楽しんで、本当に公私を共にさせていただいていますね。
共演の栗原英雄さんにはビジュアル撮影で初めてお会いしましたが、俗に言うオーラとはまた違う、「ずっと本物を求めている人」の分厚さや強度を強く感じました。栗原さんが取材の中で「お芝居は相手の影響を受けて自分がどう変わるか」、ピッチャーとキャッチャーの関係みたいだというお話をされていて。「この人だったらどんな球でも受け取ってくれる、思う存分に球を投げられる」という安心感がありますね。栗原さんも剛速球を投げ返してくれるはずなので、私もしっかり受け取る。野球じゃないけど一緒にマウンドに立つなら、メジャーリーガー級の安心感です。この作品では松本隆さんによるシューベルトの『冬の旅』の訳詞が使われているんですが、栗原さんが歌われた声を稽古場で聞いていると、物語が立ち上がってくるんです。
松本隆さんの歌詞で好きなのは「はっぴいえんど」の曲が多いかな。松本さんの詞を朗読するトリビュートアルバムに参加させていただいたこともあります。松本さんの詞は読み心地がいいんですよね。コンサートに行くとご自身も朗読されるそうですが、やっぱり朗読していて気持ちいいんです、言葉の力ですね。
『ハムレット、冬の旅 HAMLET’S WINTER』
シェイクスピアの『ハムレット』とシューベルト最晩年の傑作歌曲集『冬の旅』という時代もジャンルも異なる名作を重ね合わせ、人間の喪失と彷徨を描く舞台。演出・振付/首藤康之 『冬の旅』訳詞/松本隆 台本監修/河合祥一郎 音楽監督・演奏/斎藤 龍 出演/東出昌大 栗原英雄 渡辺理恵 高橋慈生 松野乃知 東京公演:11月20日(金)~11月30日(月) 新国立劇場 小劇場 大阪公演:12月12日(土)~12月13日(日) サンケイホールブリーゼ
撮影/古末優一 ヘア・メイク/山本絵里子 スタイリスト/ゴウダアツコ 取材/中畑有理