俳優・横浜流星さん「役とサヨナラする寂しさもあって、余韻に浸りながら別れを告げてます」
映画『春に散る』でプロボクサーを演じた横浜流星さん。今作のためにボクシングのプロテストに挑み合格したことも話題ですが、役作りへのストイックな姿勢や作品に対する熱さには定評が。クールな美しさと内面の熱さのギャップも魅力の横浜さんに作品への思いや26歳の今、考えていることを語っていただきました。
前回までのインタビュー
今この一瞬を大切に生きたいなって常に思っています
――壮絶なボクシングシーンが話題の今作。出演を決めた理由は何でしたか?
「幼少期から空手をしており、この世界にいなかったら格闘家を目指していたと思うので、違った世界線で目指していたであろう格闘家に仕事を通してなれるのは、自分にとってひとつの夢が叶う作品だなと思いました。その半面、世界チャンピオンの役をやるには生半可な気持ちでは臨めない。やるからにはただ『そう見える』じゃなくて、本気でやらなければという思いで出演を決めました」
――横浜さんが演じたのはボクサーとして再起をかける黒木翔吾。翔吾にはシンパシーを感じたとか。共感したのはどんなところ?
「今を大事に生きているところ。翔吾の『今しかねえ』という言葉は、自分も常日頃から思ってることです。人生は一度きりだし、いつ何が起こるかわからない。もしかしたら明日死ぬかもしれない。だからこそ今この一瞬を大切に生きたいと常に思っていて、まさに翔吾もそう思っている。翔吾は感情の表現をすごく表に出すタイプだから、その表現は自分とは異なるところですが、根っこの部分はすごく共感できることが多かったので、翔吾の行動は自分のことのように捉えていました」
――この瞬間を燃え尽きようとする翔吾。横浜さんにも燃え尽きたい願望はありますか?
「どの作品でも、常に燃え尽きようと思って参加してます。終わった後は毎回、役を抜くのが大変でした。最近は重たい作品が続いていたので、人と会わず家にずっといるみたいな(苦笑)。役とサヨナラしなきゃいけないので寂しさもあったりして、余韻に浸りながら別れを告げてます」
――今作では撮影が始まる約8カ月前から、ボクサーとなる準備をしたそうですね。
「食べる物だったり運動量だったり、格闘家のような日々を過ごしてました。今作では計量シーンはなかったのですが、フェザー級の57.15㎏に合わせて減量していました。この作品をやるうえで、格闘家へのリスペクトを大事にしなきゃいけないと思っていたので。今作に限らず、何か準備が必要なときは本気で取り組まなければ、役として生きられないので大事にしています」
――クライマックスの試合シーンは圧巻です。実際に当たっているところもありますね。
「スローモーションでは実際に当たっていますし、ほかのシーンでもボディには本当に当てています。元世界チャンピオンの内山高志さんから『ガードに当てるぶんには全然大丈夫』と言われたので練習から当ててました。可能な限り嘘がないように、みんなで取り組みました。だからこそリアルなシーンになったと思いますが、みんな痣だらけ(苦笑)。痛いですけど、それも慣れな気がします。僕はずっと空手をしていたので、少し普通の人と感覚が違うというか、当たると燃えちゃうタイプで(笑)。極力当たらないようにしているのですが、だんだん熱くなってしまいます(笑)。プロテストの試合でも鼻血を出してましたし、いいストレートが当たったときは一瞬ボーッとするけれど『こんな感じか!』と結構燃えてしまいます」
――とはいえ正直、大変だったことは?
「スケジュールの面ではありました(苦笑)。試合シーンが終わった翌日にがっつり芝居するシーンだったときは、全身筋肉痛の中でちゃんと芝居ができるかなと思いました。どうやってこの疲労を抜けばいいんだろうと…」
――注目して観てほしいところは?
「やっぱりボクシングシーンです。何作もの映画でボクシングの監修・指導をしている松浦慎一郎さんに『今まで作ったことがないクオリティのボクシングシーンにしてください』と最初にお願いしたところ、それを受け止めていただき、難しいものを提示してくれました。ボクシングシーンを僕らは熱量を持って乗り越えたし、自分でも今までにないクオリティの高いシーンになったと思っているので、ご覧になった皆さんが心を熱くしてくれたら嬉しいです」
◼︎横浜流星
’96年9月16日生まれ 神奈川県出身 血液型O型●’11年、俳優デビュー。最近の主な出演作は主演映画『アキラとあきら』『線は、僕を描く』『ヴィレッジ』、’22年『流浪の月』では第46回日本アカデミー賞優秀助演男優賞をはじめ、複数の映画賞を受賞。’25年にはNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)〜』で主演を務める。
『春に散る』
アメリカから4年ぶりに帰国した元ボクサーの広岡仁一(佐藤浩市)と、不公平な判定で負け心が折れていたボクサーの黒木翔吾(横浜流星)。仁一に人生初ダウンを奪われたことをきっかけに、翔吾は仁一にボクシングを教えてほしいと懇願。二人は世界チャンピオンを⽬指し、命を懸けた戦いの舞台に挑む。他の出演/橋本環奈 窪田正孝 山口智子ほか 監督/瀬々敬久 原作/沢木耕太郎●全国公開中
スーツ¥460,000シャツ¥98,000ネクタイ¥24,200〈すべて参考価格〉(すべてディオール/クリスチャンディオール)
撮影/酒井貴生(aosora) ヘアメーク/永瀬多壱(VANITES) スタイリング/伊藤省吾(sitor) 取材・文/駿河良美 再構成/Bravoworks.Inc