「可愛げは武器。でもそれだけじゃ通用しない」小島慶子さんが考える”あざとい者勝ち”社会の終焉
エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。今回は「あざとさ」について。
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小島慶子さん
1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014〜23年は息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外の大学に進学し、一昨年から10年ぶりの日本定住生活に。
『有効な時代から、通用しない時代へ』
つかぬことを伺いますが、あざとさは世渡りの武器だと思いますか? はいはーい、上手に使ってきたよ! という人もいるでしょう。「あざとい」を辞書で引くと、やり方が悪どい、図々しく抜け目がない、浅はかであるなどの意味です。でも現在一般的に使われている「あざとい」は、自己プロデュース力に長けているとか自分を魅力的に見せるのが上手いという意味ですね。相手の感情を自身に有利な方向に動かしたり、フォロワーなどの人気を集めたりする「能力」として、むしろポジティブに捉えられています。
これもある種の能力主義の表れと言えるかもしれません。生まれ持った外見に頼るのではなく、努力と工夫で自身の魅力を最大化して、他者より優位に立つことを「頭のいい勝者」とする考え方です。圧倒的な外見の美を備えていなくても、言動や装いや美容を磨いてコミュニケーション能力を高めれば勝ち組になれる。努力次第で、誰にでもチャンスがあるのだ、と。
興味深いことに、あざとさが肯定的に評価されるのは女性や若者で、あざといおじさん・おばさんは憧れの対象ではないようです。憧れどころか、元々の言葉の意味通り、悪どい、浅はかな印象です。たとえば、もし「あざと可愛い女子」のように振る舞う人があなたの勤めている会社の社長だったらどうでしょう。親会社の社長を前にして、くねくねニコニコして、さしすせそトークでおだて、ご機嫌をとってはしゃいだり、アヒル口をしたり、腕を絡めたりしていたら。さすがうちの社長、あざと賢い!と思う人もいるかもしれないけど、社員の尊敬を集めるのは難しいでしょう。
一方、若手の女性社員が同じように振る舞うと上司や先輩に可愛がられて、周りも「世渡りがうまいね、賢いね!」と褒めたりする。社長と若手社員、やっていることは同じなのに、何が違うのでしょうか。立場が違うのです。人々がリーダーに求めるのは、あざと可愛さではありません。
あざとさを磨くのは、どんな時でしょう。誰がターゲットか。婚活中なら好条件の結婚相手、就活中なら企業の採用担当者、職場なら上司や先輩、家族なら財布を握っている親、SNSならフォロワーやユーザー、つまり決定権やお金や数の力を持つ人々かな。でもあざとさを発揮して、「あなたは抜け目ないね!」と言わせたいのではないですよね。「あなたは可愛くて素直で気が利いて、見た目も魅力的で、ついつい贔屓したくなっちゃうね! 好きになっちゃうYO!」と言わせなくちゃ意味がない。つまり、うまく転がしてご寵愛をゲットするのです。
力のある人や周囲の人があざとい若者にころっと手玉に取られる様子を見て、腹が立ったことのある人も多いはず。「あんなあざとい子に騙されて! なんでわからないのかな」と。わからないんですよ。そもそも対等な存在とみなしていないから、気が付かないのです。
若い男性で、あざとく振る舞う人もいます。権限を持つ年長女性に気に入られようと、好感度の高い男子を演じる。私はそういう人に出会うと、むしろ無礼だなと感じます。全てのおばさんを転がせると思うなよ、と世の厳しさを若者にお伝えするのも、年長者の社会的責任。だからあざとく振る舞う様子を絶対零度の心持ちで静かに見守ります。媚びられても社交辞令のみで、感情的な報酬は与えません。礼儀正しくスルーです。たぶん「あざとい女子」と言われる人に対して、私と同じように対応している男性もいると思います。
で、あざとさは武器なのか。答えはYES。男尊女卑年功序列社会において、女性や若者にとっては間違いなく武器でしょう。オンナコドモは可愛げがあればそれでいいと考える人たちが力を持っている世の中では、あざとい者勝ちです。あざとさを磨いて勝ち残って熟年になったら、より高齢の権力者を攻略して、可愛がって貰えばいい。おじいさんが君臨する世界では、60代でもまだ若さをアピールできます。
でも、もしそんなあざとさ万能社会に適応した人が、そうではない場所に出たら。年長者や権力者に露骨に媚びる様子は、周囲の目には浅ましく映るかもしれません。擦り寄られた相手も、不快に感じるかもしれません。見下されているのに、本人だけが「あざとくいけば大丈夫!」と信じている痛々しい状況になりかねません。なんだかそんな光景を、いつかニュースで見たような気がします。
日本は今、時代の変わり目。男尊女卑年功序列でおじいさんたちが仕切る国から、年齢や性別などの属性に関わらず柔軟に人を生かす国へと変わらないと社会を持続できません。あざとさは一部では通用しても、それだけで世渡りできる時代ではなくなります。古い武器を捨て、のびのび暮らしたいですね。
文/小島慶子 撮影/河内 彩 取材/石川 恵 ※情報は2026年10月号掲載時のものです。
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